ベルヨシダ 今日も平常心

自称・横浜一の即興劇演者、オセチ・オ・セッチ主宰ベルヨシダの雑記

【短編】パフェとカツカレー

ネットニュースで、友達が死んだ。と言う記事を見つけた。

年齢、出身地、かつて芸能活動をしていた事も短い文章に端的にまとめられていた。

死因はまだ分かっていない。

 

寝て起きてすぐに携帯でSNSやニュースを見るのは癖の様なもので

液晶のバックライトの眩しさを瞼にストレスを感じながら

昨日寝落ちしてから深夜の間に動いていた情報を一気に確認する。

 

ニュースアプリを開きスクロールすると「元芸能人死去 謎残したまま」の見出しが目に入る。

タップして開いた記事には、今でも知ってる名前が載っていて

まともに内容も読み切らずに「これ、マジで?」と記事のリンクと一緒に

かつて芸能事務所で仲良くなった者同士のメッセージグループにいの一番で送り

その事実を確認した所で、夢から覚めた。

 

同じ時期に小さな芸能事務所に所属して、契約のために顔を出した日に知り合い

一発当てて有名になると言った野望を共に持ち、競う様に活動しては連絡を取り合っていた。

舞台、エキストラ、殺陣にダンス、オーディションに挑みながらいつ軌道に乗るのか分からない中

先にギブアップしたのは俺の方だった。

活動をすればするほど徐々に膨れ上がっていく借金に、バイトだけでは賄いきれなくなりそうなのを理由に

一発当てると言う幻想から冷め、芸能活動に見切りを付けた。

 

「才能が無かった」と借金を理由にするよりは幾分かカッコいいだろうと

よく分からない建前と見栄を張って辞めた俺を、あいつは笑って見送ってくれた。

あいつはと言うと、俺が辞めた少し後ローカル局のロケ番組に、レギュラーとしてテレビで見たのを最後に

フェードアウトする様にいつしかメディアから見かけなくなった。

 

その後の行方が分からなくなった訳じゃない。

連絡が疎遠になって久しくなったある日「事務所が潰れた、今日から職探しながらバイト三昧だわ」

とメッセージが送られて来たから「お疲れ様、紹介してやろうか?」と返してから話が弾み、久しぶりに会おうと言う流れになった。

 

聞けばそのロケ番組は、たまに雑誌やSNSでもトレンドになる程に好評だったにも関わらず、自分からレギュラーを降りたそうだ。

その番組が少しずつ知名度を上げていったのを俺も早い段階から知っていた、あいつの降板も話題になった。

書き込みにあいつの名前を見かける度に羨ましい気持ちが少しありながらも、何故か誇らしくも思えたものだ。

 

降板してからは番組の人気も下火になり、世間から忘れ去られるように終了した。

しばらくするとオファーも減り、ギャラの振り込みも遅れ始めた。

いよいよかと思っていると、マネージャーから倒産する旨が簡素なメッセージで送られて来たそうだ。

 

それから、別の事務所からも声がかかったらしく、テレビ局からもまたオファーさせて欲しいと連絡があったが、全て断ったそうだ。

曰く「タレントとしての現実も体験し、年月を経て考え方も変わり何も芸能活動が人生全てじゃ無い、もっと色んな世界を知りたいんだ」

と芸能界からの引退を決意したらしい。

 

それから、数ヶ月に一回位のペースで会っては、他愛の無い話をしつつ互いの近況を報告している。

俺は数回転職をしたが営業職を続け、あいつは警備員のリーダー格。

事務も一部任されて、そろそろ正社員はどうだと声がかかっているそうだ。

俺の借金も落ち着いてようやく余裕が生まれて来た頃、いつもの様にレストランで他愛のない話をしながら

ふと、温泉地に旅行したいなって話の流れになる。

 

「のんびりレンタカーでさ、免許無いだろ?俺が運転するからさ」と言うと

「あ〜…車、すぐ酔うからダメなのよね」

 

長い付き合いで初めて知った事実に驚かされたのと同時に

あまり深く話してくれなかった降板から引退した理由、一番モヤモヤした部分が一気に晴れた瞬間だった。

いつもより多く笑わされた俺は「マジか!過去一面白いわ!」と言うとあいつは狼狽えながら

「やめろやめろ!」と顔を真っ赤にして止めて来た。

 

そんなやり取りをしたのが、先月の事だった。

死の知らせは突然やって来る時ほど、擬似的だとしても喪失感は大きくて

朝のルーティンをそのまま再現したあまりにもリアルな夢だから、困惑も大きかった。

生きているのは分かってる。メッセージのグループにも実際送っていない。

体を起こしながら安堵感が体に満ちていくのと同時に、そいつの事を以前より考える時間がじんわり増えそうな気がした。

 

いつもより間隔は短いけれど、来週の休みにあいつと会おうかな。

お互い酒は飲めないから、また昼からコーヒー飲みながら、車の旅行に誘ってみようか。

それでまた「いやだから、車はダメなんだって!」てツッコませてみようかな。