ベルヨシダ 今日も平常心

自称・横浜一の即興劇演者、オセチ・オ・セッチ主宰ベルヨシダの雑記

【コント台本】新じゃんけん会議

【新じゃんけん会議】

作・ベルヨシダ


【登場人物】

岩見/この会の議長

羽佐間/参謀

五木/参謀

ナレーション



岩見(以下、岩)「皆、集まってくれてありがとう。本日はじゃんけんについて現行のルールに疑問があると言う事で今一度、その疑問点を共有し必要とあらばルール改定を含めた議論を行おうと思う、それでは羽佐間君、お願いします」


羽佐間(以下、羽)「はい。ご存じかとは思いますが、じゃんけんはグー、チョキ、パーの三つの指の出し方で勝敗を決めるゲームです。それぞれ、グーは石、チョキはハサミ、パーは紙を現しています。勝敗の相関図としては、グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝つ、そしてパーはグーに勝つ、と言うのが現行のルールです。

勝ち方の表現として、グーの石はチョキのハサミでは刃が立たないから、チョキのハサミはパーの紙を切ることができるから、パーの紙はグーの石を包む事ができるからとなっております。今回議題にしたいのは、パーの勝つ理由に、致命的な弱点がある事を発見したからです」


五木(以下、五)「弱点?」


羽「パーの紙がグーの石に勝つ理由は、石を包む事が出来るから…他の手は攻撃的な勝ち方に比べ、パーの勝ち方は、優し過ぎるのです」


五「それはそれで良いのではないか?それぞれの長所を活かし勝ちを得るからこそ、じゃんけんの醍醐味でもあろう」


羽「ですが、その紙の個性が事もあろうにじゃんけんの機能自体を阻害していたのです」


岩「どう言う事だ?」


羽「…気づきませんか?」


岩「…!まさか!?」


羽「そうです、紙は、ハサミも包めるのです!」


岩、五「!!」


羽「確かにハサミは紙を切る事が出来ますが、紙だってハサミを包んでしまえる…互いの個性、つまり勝ち要素が有効になり、相殺しているのです」


岩「やきそばパンみたいな事だなっ」


羽「それは意味がわかりません」


岩見、気を取り直して


岩「しかし、どうして今まで気づけなかったんだ…これは下手したら、国家の存続を揺るがす事になりえん」


羽「紙の優しさが、仇となっていたんです…」


岩「では仮に、パーの紙に変わる新しい手を考えるとして、何が最適な表現はあるか?代案はあるんだろうな?」


羽「候補として、とんかちを提案致します」


五「とんかち?」


羽「はい、とんかちであれば石を砕くイメージがあり、グーやチョキと同程度の攻撃的なイメージを持たせる事が出来ます」


五「手の形はどうするんだ?」


羽「…こうです。」


羽佐間、何か両手を使ってとんかちらしい手の形をする


岩「両手を使うのか、斬新だな!」


羽「はい、見た目も派手で子供も喜ぶと想定しております、いずれ教育面でもいい影響が出るかと」


岩「これなら、紙に変わる新しい手に出来そうだな」


五「待て。結局、とんかちもハサミに勝ってしまうのでは無いか?」


羽「なに?」


五「とんかちでハサミを叩いて、形を歪ませてしまいハサミの機能を奪ってしまう事がイメージ出来る」


岩「ほう、中途半端な刀鍛冶みたいだな」


五「はは、つまんないです」


岩見、再びフリーズする


羽「深読みしすぎでは?」


五「君が言った紙の勝ち理論と同じ事だ」


羽「似て非なるものです、では紙の代案はとんかちの方向で」


五「待つんだ、とんかちでは納得できない。これは今までのじゃんけんの根幹を揺るがす大事件なんだ。慎重に事を進めるべきだろう」


羽「しかし!」


五「落ち着くんだ!第一、とんかちだけ両手を使う手なんだ、すぐにバレてしまうんじゃないか?」


羽「!」


岩「そうだな。君のじゃんけんへの情熱はわかっているつもりだ。だが、この事はまだ外部には気づかれていない。今は一歩一歩確実に、議題を進めよう」


羽「…わかりました」


岩「決定権は議長である私にある。羽佐間君、君の紙に対する提言は認めよう。しかし代案のとんかちは、正式に却下する」


羽「…はい」


岩「では、改めて」


五「議長、私から提案があります」


岩「いいだろう聞かせてくれ」


五「いっその事、全て変えてしまってはいかがでしょうか?」


岩「何?全て?」


五「ええ、元々この石、ハサミ、紙の三つ自体に無理があったのです。よくこれだけ長い間、続いてきたものだなと。もっとこう…合理的で説得力のある物が良いかと」


岩「ふむ、何か候補はあるんだろうな」


五「はい、説得力があり誰しも馴染みのある物。それは…火、水、草の三つを提案します」


羽「…え?」


岩「ほう、あえて原始的な発想にする事で誰しもイメージしやすい物を選んだんだな?しかし、火と水は分かる。水は火を消すから水が勝つ。しかし草はどう言う理屈だ?」


羽「いや待て待て」


五「草は、水から養分を吸い糧にする。水に対して勝利します。しかし草は燃やされるので火が勝つ!どうですか?従来のジャンケンよりもしっくり来ませんか!?」


岩「すごいじゃないか、とても自然で馴染みやすい!」


羽「待て待て待て!」


五「そうでしょう?この三すくみを発見するのにどれだけ時間を要したことか、さ、善は急げです。この方向で調整し、近く記者会見を」


羽「急ぐなー!!アホか、アホだろ!」


岩「おいどうした」


五「なんだと言うのだ、いくら何でもアホは無いだろ?ははん、さては妬いているな?私に手柄を持っていかれるのが癪に触るから、そうやって焦って止めたんだろう?」


羽「…もうある」


五「は?」


羽「昔から、ゲームでもうあるんだ」


五「…え?」


羽「詳しくは言えないけど、でっかい所のゲームソフトでそれ取り入れてるの!火とか水とか草の属性持たせたモンスターを戦わせたり、トレードしたりコレクションしたりするゲームがもうあるの!日本どころか世界中で人気になってんの!!」


岩「…そうなのか?」


羽「その3つだけじゃない、かみなり、かくとう、エスパー、ゴースト、ひかり とか やみ とかなんかもう…沢山ありますから!」


五「そ、そんな…私の、努力は一体…」


羽「本気で言ってます?パクったんじゃ無いんですか?」


岩、五「知らなかった…」


羽「嘘だろ!?一番触れちゃいけない所ズカズカ行こうとしてたからな!良かった〜止めて〜」


五「お、俺の提案もボツだと言うのか…くう!」


岩「このままではジャンケンが…国家が…あ、ああああああああああ!!!」


羽「ど、どうしたんですか?」


岩「あああ、た大変だ…」


五「議長一体何が」


岩「君、最初に紙の個性がじゃんけんの機能を阻害していると言ったね?」


羽「はい、石とハサミ、どちらも包めてしまうと」


岩「石にも同じ現象が起きる事に気づいてしまったんだ!」


羽、五「え?」


岩「いいか、石はハサミでは切れないからグーの勝ちではある、しかし、しかし…石を投げつければ紙は破れてしまわないか!そうだろ!石もどっちにも勝ってしまう!石の個性もじゃんけんの機能を阻害してしまったんだ!!これは紙だけで無く、石も変えるべきだ!そうだろ!?さあ一刻も早く新しい手を!!」


羽、五「あー…」


岩「あれ?」


羽「まあ、どの道紙は変えなきゃいけないから。そこに気づかれても今更…」


岩「は?」


五「羽佐間の意見から思いついたんですよね?それこそ私達を驚かせようと思って狙って言ったんじゃないですか?」


岩「いや、そんなつもりは」


羽「まま、それ以上詰めていくと、何でもアリになっちゃいますから」


岩「えちょっと」


五「今までで一番マシなギャグだったとは思いますよ?焼きそばパンとか、刀鍛冶の例えはヒドかったし、ねえ」


岩「ギャグじゃない、私はただホントに」


羽「温めてたんじゃないんですか?だいぶ前から」


岩「違うんだ、純粋にだな…」


五「もういいですから。さ、議題を進めていき」


岩「お前らー!!さっきから何なんだ!!よく分かんないとか、つまんないとか!私はただ場を和まそうと思ってだな、ちょっとでも笑って貰いたくてだな!それを何だ、人の事をけちょんけちょんに言いやがって!」


羽「お、落ち着いてください。そんな考えがあったなんて、な、なあ?」


五「いや、笑えないものは笑えないからなぁ」


羽「お、おい?」


五「この際だから言いますけど、いつも出勤してすぐに変な事言われてるこっちの身にもなって欲しいんですよ。この間も挨拶で『おはギロ四重奏~』って言われてスルーしたらその後もずっと『おはギロ…ギロギロ、ちゃっちゃかちゃっちゃか.…』て昼過ぎまでぶつくさ言ってるんですよ?」


岩「それだって…みんな疲れてるだろうと思って7日前から寝かせておいたのを満を辞してロールアウトさせたんだ!」


羽「7日前でそのクオリティ…」


五「デスクの中の事だって知ってるんですよ、仕事が無いから普段からネタをノートに書いといてるんですよね?掃除のおばちゃんが言ってましたよ?」


羽「そうなのか?」


岩「や、やめろ…」


五「棚の中が全部ネタのノートばっかりで、万が一の時にバレたくないから「NTN」ってタイトルにしてるんだろうって」


羽「NTN、ネタノート。わかりやすっ」


岩「ひ、待て…待てって」


五「センス無いんだし、議長ってだけであぐらかかないでちゃんと仕事見つけてくださいよ、センス無いんだから」


岩「五木ー!お前、今日でクビだー!!秘密もバラした上に人の善意をふいにしやがってー!!羽佐間、君は分かってくれるだろ?な?な!」


羽「…いや、正直きついっす」


岩「だー!こんちくしょー!どうせ!誰も!分かってくれないんだー!!」


岩見、感情が昂り動きがむちゃくちゃになる。それを見た羽佐間


羽「は!それだ!」


五「な、何が?」


羽「今の動きで、閃いたぞ。今までのじゃんけんの概念を覆す新しいじゃんけんが!」


五「自信に満ちている…その直感信じて良いんだな?」


羽「ああ、任せろ!」


岩「お前らだけで話進めるなー!!」


五「議長、もういいから、そう言うのもういいですから」


羽「たまには役に立つんですね」


岩「へ、役に、立つ?私が?」


羽「イメージがなくなる前に、詰めていこう」


五「ああ!」


岩「や、役に…立つ…え、えへへ」


~暗転、明転〜


場面変わって記者会見の場、シャッター音が鳴りやまない


岩「それでは、新たなじゃんけんの手について発表致します」


3人、各々が準備をする


岩、羽、五「じゃーんけん、ポン!」


3人、新しい手(もはや変なポーズ)をそれぞれ披露する


岩「新たな手はそれぞれ『荒ぶる大福惑星』『つっけんどん月面兄弟』『ゲーミングはまぐり三昧』とさせて頂きます!」


一瞬にして場は凍り付く


ナレーション「この新じゃんけんは、世間から大バッシングを受け炎上したが、後にネットスラングとして掲示板の書き込みにたまに見られるとか、見られないとか…」


終わり